「ごめん、私トイレ寄ってくから先行ってて!」

「えっ、早くね、あんたいないとフワリくんわかんないし!」

「了解!」



バタバタと騒がしい足音が鳴るのは、フワリくん捜しを手伝ってくれる女子の人数が多いから。


もはやクラスの女子半数以上を巻き込むこの騒動に、肝心の私の足はみんなから離れてトイレへ向かう。








「唇カサカサだぁ……」



トイレの鏡を見て、荒れた唇に眉を寄せた。


可哀想な唇に、色つきのリップを塗る。


淡いピンクのリップが、荒れた唇を潤していく。



「よし」



髪の毛確認よーし。


顔面確認よーし。


制服確認よーし。


これでいつでもフワリくんに会える準備はおっけー。


よし、みんなのところに行こう!




1階にあるトイレから出て、廊下に1歩踏み出した、


その時―――




「つーか雨降ってるじゃん、(おお)ちゃん傘持ってる?」

「んー……持ってない。」

「菊持ってんだろ」

「んじゃみんなで菊の傘入るかー」




「、…」




私の目の前を横切って行ったのは、……紛れもなく、あの横顔。



フワリと揺れた髪の毛が、目の前を通り過ぎていった……