「……ありがとう、ございました」

「おうよ」



頭を下げて、朝倉先輩に背を向ける。


旗係のほうは極力見ないように、歩きだす。


もう……この教室から一刻も早く出ていきたい。


のに。



「あ、雑用ちゃーん」



旗係の中から、座ったままの山本先輩が私を呼んだ。


振り向いた先で視界に入ってしまったフワリくんは、丁度私に背を向けている。


丸まっている白い背中に、ズキズキが増した……



「これ、そこのリュックの上に置いといてー」



ふわっと宙に浮いたのは、さっき山本先輩が遊んでいた野球の球。


投げられたそれをキャッチしようと思ったけど、あまりにも急だったからうまく掴むことができなくて。


私の手から外れた球は、バウンドして元の方向に転がっていった。


コロコロと床を転がる球の行方……。


目で追いかけるその先を……見たく、ない。



丸い球が止まったのは、



白い背中の、……すぐ横だ。