『おやすみ。』

子供の頃からその言葉が嫌いで仕方がなかった。

空が暗くなるにつれ私の気持ちもどんよりと暗くなっていった。夜ご飯を食べて歯磨きをしてお風呂に入って水分補給をしてドライヤーをかけてもらって・・・ルーティーンをこなす度に少しずつ気が重くなっていく。

ルーティーンの最後はトイレ。その狭い個室から出たくなかった。ここから出て手を洗ったら寝室に行かなくてはならない。寝室に行ったらすることはひとつ───寝るだけだ。

お母さんが昔話をしてくれたり子守り歌を歌ってくれたり、『明日の朝ご飯はホットケーキにしようか?フレンチトーストとどっちがいい?』だとか『明日はお休みだから動物園に行こうね。』なんて楽しげに話してくれても、私の心の強張りが解けることはなかった。

なぜなら今日と明日の間にすごく嫌なことがあるからだ。