ティッシュを取り出そうとする私よりも先に、瀬戸君はチュッと私の唇にキスをした。


そっと触れるだけの、優しいキス。


「ん、取れた」


照れて俯く私を見て、クスッと笑う。


こういうことも、もう感度かしている。


でも、相変わらずなれないんだ。


「泉、顔真っ赤にして。可愛い」


「そんな事言わないでっ」


男の人に『可愛い』とか言われると、本当に自分のペースが崩れてしまう。


食べかけのドーナツを頬張ると、甘い味が口いっぱいに広がる。


それはまるで、瀬戸君と2人でいる時の、私みたいな味だった。


「さ、そろそろ行こうか」


ドーナツ屋さんで1時間ほど話をした後、瀬戸君が立ち上がる。


私もそれについて立ち上がろうとしたとき、人影が見えてふと見上げた。


「……っ」