嘘の花言葉

「あとは一人でやります! ありがとうございました!」

 そう言って、その人が起こそうとしている自転車をガッシリと掴む。
 するとその人は、私から自転車を完全に奪ってしまう。

「最後まで手伝うよ。ほっとけない」

 思いがけない言葉に胸がキュンとした。
 顔が紅潮してくるのが自分でもわかり、「ありがとうございます……」と小声で言ったあと俯く。
 左側から自転車を起こしつつ、右の方で手伝ってくれているその人の横顔をチラと見た。
 理想とは違う。でも……イケてる。
 今日は最悪な日だと思ってたけど、最高の日かも。
 二人で全部の自転車を起こし終わる頃には、とっくに電車は行ってしまっていた。

「あの、ジュース飲みませんか? もちろん奢るので」

 スクールバッグから財布を出しつつ、駅舎の出入口にある自動販売機に視線を送った。お詫びのつもりだけど……これじゃしょぼいかな。でも近くにカフェなんてないし。

「いいよ。元々一本遅らせようと思ってたんだ」
「え、どうしてですか?」
「この駅の近くに桜並木があるって聞いたから、見に行こうと思って」

 「桜トンネル」のことだろう。向かい合う桜の木の枝が重なり合いトンネルみたいになっているから、地元の人たちにそう呼ばれている。