確かに九条家は財閥経営のグループであり、その会長を務める祖父は絶対の権力を持っている。そのためぼくも将来は九条グループの会社に就職をするのだろうとは思っている。でも、ぼくはそこまで九条家とかかわりを持っているとは思えなかった。

 小学生時代は九条とは関係ない父方の親戚のもとで育っていたことも大きい。中学に上がって香りさんと暮らし始めてから、九条グループが大きな財閥グループだと知ったぐらいだ。
「香りさんが結婚してないのは反対されたからなの?」
「そうね、そうとも言えるわね。私の場合は、おじい様に反抗して結婚しない選択を選んだだけ、それから誠を引き取ったのは、私の跡継ぎとしての考えもあったのよ」
 すごく冷たく言い放つ香りさんにぼくは突き放されたような感覚におちいった。

 本当にぼくは香りさんの道具じゃないか。

「でも、私は誠と……」
 香りさんはまだ言いたりないようだったけれどぼくはそれを遮った。
「もういいよ。ぼくは香りさんをこれ以上嫌いになりたくない」
 情けないことに涙が滲んできていた。

 香りさんの気を惹くつもりが逆に引き離されてしまった。知りたくもない真実をぼくは受け入れたくはなかった。

 心のよりどころを一夜にして失ってしまったことに寂しさが込み上げるのだった。