結局のところ、香りさんの帰りは朝方の5時頃に帰宅した。帰宅してきた香りさんはぼくの部屋を覗いて、ぼくが寝たふりを決め込んでいる姿を見ると、「馬鹿なんだから」と言って自分の部屋に戻っていった。

 次の日に香りさんの秘書である若い女性がぼくの姿を見て、
「災難だったね、誠君は巻き込まれただけなんでしょ」と言った。
「うん、なんでわかるの?」
 そう訊くと若い秘書は悩みながら、
「私が言ったのは内緒よ、九条さんはあれからずっとデパートの監視カメラで誠くんの動向を調べていたのよ。身体に響くから止めたのに、誠は万引きみたいな卑怯な真似はしないって言ってね。本当に過保護なくらいいい親代わりね。大事にしなさいよ。実の親だってあそこまでしないと思うわよ」
 香りさんの行動に呆れたように秘書は言いながらも表情は晴れやかだった。
「秘書さんも付き合ったんでしょ?ありがとうございました。」
「いいのよ、それが仕事だし、私も九条さんのことは尊敬してるからね、まあ感謝してるなら今度、コーヒーでも奢ってね」
 そういうと秘書は先にマンションの下に止めてある車に向かったのだった。

 すごく好感の持てる人だな。綺麗な人だし。そう思って、ぼくは気づいた。ぼくは年上が好みなのかもしれない。だから同級生に対して異性としての興味を抱かないのかもしれないと。