そう、と彼の言葉にうなずく。

あのパンドラの箱の頂点に立つ人は、ひとりの女の人。その"姉さん"と呼ばれる女の人が、カフェ『Romeo』のマスターの妹だった。



椿を置いて、ノアの話と称して裏で教えてもらったのはこのことだった。

彼はその妹さんの連絡先をわたしにくれて、椿に家まで送ってもらった後、彼女に連絡した。



「……お前な。

自ら正体不明の組織に乗り込もうとしてんじゃねえよ。何かあったらどうする気だったんだ」



「……ごめんなさい」



染に怒られて謝ると、彼は「それでどうなったんだ」と呆れながらも続きを聞いてくれる。

連絡を取った彼女に直接会いたいと言われて、わたしはあのパンドラの箱の中枢である場所に、直接向かった、ことを伝えれば。



「……お前は馬鹿か」



案の定怒られた。

いま思えばわたしも無鉄砲なことしたな、と思うけど。




「あのね、手っ取り早く言うと和解したの」



「……和解?」



「別に『花舞ゆ』を反対してるわけじゃないらしいのよ。

むしろ、居場所をつくるという意味では、『BLACK ROOM』も『花舞ゆ』も同じなの」



それならなぜ、彼が不良組織反対と言ったのか。

……何も、悪い意味なんかじゃ、なかった。



「あの場所には、大人もいるみたいで。

……救ってくれる場所なんだって」



昨日行ったパンドラの箱。彼の姿もあった。

そして、彼が言っていたのは。



「この場所は、姉さんやほかの大人たちが何かあったら俺らを救ってくれる。そういう居場所だから、俺らにはちゃんと未来があるけど。

……『花舞ゆ』には、子どもしかいないでしょ。"何か"あったときに間違いなく手を差しのべてくれる人が、どれだけいるの?」