俺の話を聞いていない、いや、聞こえてるけど無視してるのか。

一言で完結したシイはそれ以上その話を続けることはなく、小さくため息をついてから俺もキャリーケースを開ける。



向こうに帰ったら、ひとまず家に帰って、すみれを抱きしめてお土産を渡してからたまり場に行く。

芹からの連絡は……自由行動中に、入ればいいけど。



そのあとは飛行機に乗るから、フライト時間は短いとはいえスマホは使えねえし。

連絡が来たところで何かできるわけじゃねえんだけど、『花舞ゆ』にはなびを引き戻したい俺としては、少しでも早く答えを聞きたい。



……なんて思ってはみても、ときが進む速さは変わらないわけで。

一緒にまわろうと甘えてきた女の子たちと自由時間を回ったのはいいものの、結局芹から自由時間内に連絡が来ることはなかった。



「ねえねえ、椿」



「ん……?」



「椿の好きな女の子って、どんな子なの?」




俺の腕に絡んで、首をかしげる彼女。

どんな子、と言われて自然とはなびを頭に浮かべるけれど、どうも似合う言葉がなくて苦笑する。美人で、正義感は強いけど。誰よりも、あの人のことが好きで。



「……ばかみたいに一途で、」



「うん」



「すげえ、かわいい」



本当は寂しがりなのも、甘え下手なのも。

全部知ってて、全部可愛いのに。どれだけ想ったって、はなびが見るのはあの人ばっかりで。



「……大好きなんだね、その子のこと」



ただそう言われただけなのに、喉の奥が熱くなった。

自分でも、思ってる以上に。声を聴くたびに。会うたびに。──消えることはあるのかと思うほど、感情は強くなるばかりだった。