染に歩み寄った穂が、ついでに彼女に声を掛ける。

何度も、不安そうに揺れる双眸。けれど穂の人柄に安心したのか、彼女の瞳は徐々に和らいでいく。──そして。



「えっと……與、はなびです」



トップに促されてそう自己紹介した彼女は、ふわりと笑ってみせた。

……それが、あまりにも可愛かったから。



「つーちゃんたまちゃん芹ちゃーん。

こっちきてー、みんなも自己紹介しようよー」



あの人の言葉を借りるなら、この時点ですでに"ぐらっときてた"と思う。

小学生の恋愛ごとに、駆け引きなんてものはない。はなびが可愛いから一目惚れしたんじゃないの?って言われたら、それまでだけど。



「ねえ、椿」



最初こそはなびは緊張してたけど、コミュニケーション能力は高い方らしい。

すぐに馴染んだし、俺らとも仲良くなって。はなびは、頻繁に来てくれるようになった。




あんまり女の子が出入りする場所じゃねえんだけど、いずれはまあ染がトップに立つんだろうし、そもそも染とはなびを連れてきたのがトップだったから。

分け隔てることなく打ち解ける彼女自身の性格も相まって、彼女の出入りに口出しするヤツはいなかった。



「ん〜? ……って、つめた」



「どしたの、その話し方」



「ああ、これ?」



振り返れば頰にぴたっと押し当てられたカフェオレのペットボトル。

それを受け取りながら言えば、「その髪色も」と顔をしかめる彼女。今の間延びした話し方は、中学に入って間もない頃に身につけたものだった。



「色んなもんを、距離置いて見るようにしようと思ってさ〜。

……近すぎてわかんねえことだって、あるだろ」



「……、そう、ね」