抱っこしてあげている間、話せるようになったのいちゃんは、一生懸命わたしに話しかけてくれた。

全部は理解できずとも、ある程度内容にあわせて返事をしてあげれば、とても満足らしい。嬉しそうな表情を見るたびに、心を締めるような気分だ。



だって、この笑顔を壊したくない。

のいちゃんのことを、絶対に泣かせたくない。



そう思えば思うほど、彼女を真実から遠ざけたくなるのは当たり前のことで。

やっぱり、わたしはノアの特別にはなれない。



「お待たせ……って、あら、のい。

はなびちゃんに抱っこしてもらってたの?」



のいちゃんの荷物を手にかけた千秋さんに、彼女が腕を伸ばす。

それを見て彼女をゆっくりおろすと、千秋さんに「大丈夫だった?」と尋ねられた。腕が若干疲れたけれど楽しかったし、こくんと頷く。



のいちゃんがわたしたちに手を差し出してくれて、のいちゃんを間に挟んで歩くような形で保育園を出た。

ほかに寄り道をするところは特にないようで、目指す先は、ノアも一緒に住む、彼女の家。



ふんふんとご機嫌なのいちゃんにくすりと笑って、口を開いた。




「わたし……

千秋さんとのいちゃんのこと、好きなんです」



「わたしも、はなびちゃんのこと好きよ」



「ふふ。すきだから、ノアのそばにいてほしいと、思ってます。

……ノアの大切な存在は、わたしじゃなくて、千秋さんとのいちゃんだから」



3人が暮らす場所までは、そう遠くない。

今日もノアはお仕事で、会えないけれど。顔を見なくたって、長らく連絡を取り合えなくたって、わたしたちは紛れもなく愛し合ってる。



「誰も悪くないのなら……

のいちゃんを、誰よりも優先してあげてください」



わたしの言葉を、理解しようとしたのか。

のいちゃんがわたしを見たから、優しく微笑んでおいた。わたしのことを「はなちゃん」と呼んでくれた、その甘いトーンで。



ノアのことを「ぱぱ」と呼んだ、彼女の声が。

わたしに決断させる理由には、十分だったから。