──だから後輩が合格祈願に来たなって、気が付いたんだ。
 毎年この辺の学校からはそんな回覧が回ってきてる。まあ地方だし、ちょっと道外れると暗いし。だから気を配りましょうってのは、地域住民の総意らしい。

 勿論私服で来るのが大半だけど。
 わざわざ制服で来てる真面目な舞花は、割と自然な形で目に付いた。

「絵馬書いて、おみくじ引こう」
 仲の良い友達とはしゃいでいるそんな姿を見て、元気だなー、って覚えてた。
 深夜零時、そこそこ賑わう境内で、一際賑やかな御一行さん。

 普通のおみくじか恋みくじか散々悩んで、普通のおみくじ選んで。何でだろ、なんて思ってたら、同じこと聞いてきた友達に「おみくじに駄目って言われたく無い」なんて返してて笑えたけど。いじらしい顔を赤らめているのを見て、何故か息を飲んだ。
 
 こいつの願いが叶えばいいと思いながらも、こんな大事なものを見落とす奴に、こいつは勿体無いとか、なんか思った。


「あのー、すみません」
「えっ」

 ほんの少し参拝客の対応に気を取られてたら、いつの間にか舞花が近くで俺を見上げてた。
 じっと見てたから気持ち悪かったのだろうか。苦情でも言いにきたんだろうかと内心で焦ってると、手に持ったおみくじを差し出して来た。

「あの、おみくじを、その。高い位置に結んでくれませんか?」
「……え、ああ……」
 どうやら身長に目をつけられたらしい。
 てか、俺袴着てるしな。神社の人間だって、そう思うだろうし。

「──大吉になるように、一番上に結んでおきます」
 そう言ってやると舞花は、ぱちくりと瞬いてから、花開くように笑った。
「ありがとうございます」
「……」

 ……なんで見えないんだろうって思った。
 おみくじに願いを込めたい舞花の相手──

 舞花の視線の先にいるそいつを見れば、別の誰かとはしゃいでた。そんな舞花が息を飲んだ瞬間をうっかり見てしまって。

 ああ、あいつ。見る目ないなあ……なんて思ったら身体が勝手に動いて、舞花の視界を塞いでた。驚く舞花に頭を掻きながら適当な話を口にする。

「──……その、神社はどうですか?」
 なんてゆーか、もっと気の利いた事を言いたい。
「あ、楽しかったです。夜中に遊びに行くなんて初めてで。どきどきしました」
 根が素直なのか、聞かれた事に直ぐに答える舞花に嬉しさがじわりと込み上げた。

「そうですか、なら良かったです。……良かったらまた来て下さい。ここは毎日やってますから」

 愛想笑いってどうやるんだったっけ。
 上手く笑えずに視線だけでも逃げていると、再び聞こえてきた声音に引き寄せられた。

「そうですね、また神様にご挨拶にきます」
「……どうも」

 そう笑って舞花は手を振って友達のところに駆けて行った。
 すげー強烈な残像を残して。

 そうして気が付けば、吸い込まれるように舞花の書いた絵馬に手を伸ばしていた。
 大学への合格祈願と、武藤君と両思いになれますように、なんて書いてあるのを見つけて。

「……悪いな、絵馬は見ない方がいいのに」

 舞花が来るのがうちの大学だって知ったから、俺も絵馬に願掛けした。もう一度舞花に会いたいって。
 
 それでもし、その時まだ舞花の祈願が成就していなかったら……