彼を見上げにこりととびっきりのスマイルを作る。
こういう顔をすれば男はいちころだ。 そういう計算、近頃していなかった…。
きっと小早川家に居たせいだろう。

あの場所では自分を飾る必要はなかった。 けれどもいつまでも小早川家でお世話になっているわけにもいかなかった。

碧人さんの厚意で家に住まわせてもらっている。
秀人さんはいつまでだって家に居ていいと優しく言ってくれる。

三姉妹だって生意気だけど可愛い所だってある。 あの家は温かくて、まるでふと振り返った時に見たような懐かしい光景に似ている。

けれど、私の居場所ではない。 いつまでも小早川家にお世話になるわけにはいかない。

碧人さんは口ではいくら何を言っても、私が自立出来るまで面倒を見てくれるつもりだろう。
けれど小早川家の住人のそんな善意がいつも心痛かった。

…瀬能さんと付き合ったら、瀬能さん私の事マンションに住まわせてくれるかな…。 またそんな考えを頭の中で巡らせ、男に甘えようとした自分がどこかにいた。