【完】ひとつ屋根の下、気がつけばあなたがいた


ちらりと顔を上げると、碧人さんはまだまだ眠そうに目をぱちぱちと瞬かせた。

私の視線に気が付くと、訝し気な顔をしてこちらを見つめる。 いつもは大きな黒目が輝いているけれど、目を細めてジッと見入る。

少しだけ視力が悪いらしく、仕事中はコンタクトレンズを使用している。 一緒に生活をすると知りたくもない碧人さんの情報を知ってしまう。

「何だよ」

「別に~~。さって私はお仕事行ってこなくっちゃ~」

コタツから出て、用意していた鞄を手に取ると
碧人さんが引き止めるように私の名前を呼ぶ。

「桃菜」

「何?」

「行ってらっしゃい。仕事頑張って来いよ」

「フンッ……あんたに言われなくても桃菜は頑張ってる」

碧人さんがコタツの中でだらしなく丸まって、こちらへと笑顔を向けているのが分かる。
その顔を見て、少しだけ心が柔らかくなっていった。

外に出たら見事な冬晴れ。
今日はコートもいらないくらいぽかぽか陽気だ。
こんな日はスキップをして歩きたくなってしまう。

いつもは素直に口に出して言えないけれど、嫌々ながらも小早川家に連れて来られて本当に良かった。

私は家族ではないけれど、温かい家族を前にすると自分もその一員になれたように錯覚する。
こんなにも騒がしく穏やかに過ぎていく時間があるなんて