碧人さんの視線がこちらに飛んできて、ひょいっと私の体を両手で持ち上げた。
突然の事に頭がパニックになる。
「は?ひゃ!!!な、なにす…」
藍でも抱くように軽々と私を持ち上げると、彼は自分の顔と私の顔が同じ位になる高さで手を止める。
心臓はドキドキと高鳴りっぱなしだ。 顔を中心に熱が集まってくるのを感じる。
別に処女でもないし、男とも何人も付き合って抱き合ってきた。 けれどこんな正体不明のドキドキは初めてだった。
男なんてうぶな振りをしていれば喜ぶし、顔を少しでも赤らめて気のある素振りをすれば直ぐに好きになってくれる。
あなたが初めて、なんて言って甘い言葉を掛けたら単純だから直ぐに喜ぶ。
男の浅はかな生態は知り尽くしていた筈だ。 けれど碧人さんを前に、頭が真っ白になってクラクラする。
「何だよ、照れてんの?この位で」
不敵に笑う碧人さんを前に、胸のドキドキは止まってくれそうにもない。
馬鹿みたいだ。こんな風に振り回されるのは……
振り回されるのなんか嫌だ。 私は自分らしく、男を振り回していなくっちゃいけないのに。



