【完】ひとつ屋根の下、気がつけばあなたがいた


梓さんの言葉に無言になり、その場で考え込んでしまう。
…まさかまさか元カノだったなんて。
確かにお似合いだって思ったし、二人の間にただならぬ雰囲気は感じていた。

「蛯原さん、どうした?」

モヤモヤとした気持ちのままこの正体が分からずじまいだった。

パソコンで事務作業をしていても、思いは違う場所にある。  そんな私の顔を心配そうに瀬能さんが覗き込む。

「うわあ…!びっくりしたあ…」

「どうしたの?ぼんやりしちゃって…指止まってるよ」

「あ、いやあ、何でもないですぅ~~。ささ、早く仕事終わらせなくっちゃ~」

「アハハ、めっちゃやる気じゃん。俺も手伝う。 来月から新しいフェアも始まるし忙しくなりそうだね~」

その日は瀬能さんの言葉に相槌を打っていたけれど、何を話したか余り覚えていない。
頭に浮かぶことといえば、お似合いだった二人の顔ばかり。

碧人さんと藤枝さんの事が気になって仕方がなかった。 ただでさえ最近は碧人さんを変に意識して喧嘩ばかりしていたのに、また碧人さんの事ばかり考えてしまっている自分が情けなかった。