惚れられたら惚れられたで、美味しい物をご馳走してもらって、好きなプレゼントを買って貰えばいい。
今までそういう恋愛のスタンスだったはずなのに、何故か気乗りしない。
「結婚したいなあ…」
ひとりぼっちの事務所で、思ったより大きな独り言が漏れてしまって思わず後ろを振り向いた。
誰もいなかった事にホッと安堵の息を漏らす。
一体どんな独り言だ。
あいにく結婚願望はなかった。 打算だらけの自分が純粋に人を愛せる訳がない。
それでも家族が欲しいと思う事は何度もあった。
陽だまりのように温かくって、自分だけの帰る場所。
それは幼い頃に振り返ればいつもあった、居場所。 だけど私はその場所に入る事が許されなかった人間だ。
だからこそ、過剰に家族愛を求めてしまうのかもしれない。
小早川家の優しい雰囲気に心が柔らかくなっていくのかもしれない。
「蛯原さーん、本社からお客さんが来てるみたいだから事務所に通すねー」
呼ばれて振り返ると梓さんがいた。



