「こまつゆりさんいますかー」


からんからん、と軽い音を立ててドアにつけてあるベルが鳴った。


名前を呼ばれて反射的に振り向くと、例の怪しい男の子がドアから顔を覗かせていた。

その瞬間、少しだけ弛んだ手をぱっと振り払うと入り口へと走った。


あ、なんか逃げたみたいになっちゃった。


いや、でも良かったのか。


“俺のことどう思ってんの“



あたしはなんて言うつもりだったんだろう。


「やっほーゆりちゃん……なんか顔赤ーい
カゼ?」


この前聞いた時はやけに間伸びした声に正直少しだけイラッとした。

だけど今はこのゆるい声を聞いて、ちょっとずつ落ち着きを取り戻している自分がいる。


「…ご用件は」

「カフェオレください、この前飲まなかったからね」


飲めなかった、っていうか飲まなかったんだろ。

そう思いながら伝票を書こうとポケットに手を突っ込んだ時。



「お前誰?
なんで俺とこの人のこと知ってんだよ」


不意に肩に感じたのは、さっきまであたしの手を掴んでいた熱い手の感触。


「……やっほー、絢くん。
なんでとかどうでもよくない?俺と友達になってよ」