「…………柚璃、お前それ」


ゆっくりと指を刺したその先には、小さな子ども。

その小さな子どもは絢くんの視線から逃げるように、あたしの胸にしがみついた。


小さな手はすがるようにあたしの服を掴んでいて、かわいいなあと顔が綻んだ。


「…ゆり、こいつだれ」

「こ、いつだあ?」


子ども独特の高い声に額に青筋を立てる絢くん。
大人気ないなあ。
その瞬間、絢くんと子どもは相性が悪いらしいと悟った。



天気のいい3月のある日。

あたしはとある事情で子どもを預かっていた。

突然子どもを預かることになったので、
バイト終わりに会う約束をしていた絢くんに″会えなくなった″とラインしたのに。


ひょこりとバイト先へ顔を出した絢くんは、あたしにしがみつく子どもを見て顔を引き攣らせた。



「まさか、お前…隠し子」

「んなわけないでしょ。
従兄弟の子どもなのよ」


ことの次第はこうだ。

近所に住む従兄弟から、″赤ちゃんができたみたいで病院へ行きたいから、少しの間上の子を預かってほしい″と連絡が来た。

幸い何度か会ったことがある子どもは、あたしに懐いてくれていた。
あたしの顔を見るなり駆け寄ってきたその子を見て、思わず頬が緩んだ。