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「おかえりー…酒くっさ」
玄関のドアを開けるとキッチンから顔を出した絢くんに出迎えられた。
そんな酒臭いかな、そんなに飲んでないんだけど。
ちなみにこの家は、あたしの家。
同棲しているわけじゃないけど絢くんには合
鍵を渡しているので、
彼がバイトのない日はいつもふらりとうちに来ていることはよくあることだ。
「佐倉元気そうだったよ」
「…あっそー」
前に佐倉があたしのことが好きだった、ということをなぜかしっかり知っていた絢くん。
出会った頃よりは大人びた顔をしているけど、ご機嫌ななめになると口を尖らせる癖は大人になっても治らないらしい。
6年も一緒に居ると、少しの表情の変化もわかってしまうせいで彼が今拗ねていることはすぐに分かった。
「何の話したの」
「んー、別に大した話はしてないよ?
会社の話とか同僚の話とか結婚の話とか、」
そこまで言ってしまった、と思った。
歳上の女から結婚の話を持ち出される瞬間こそ鬱陶しいものはないだろう。
わざとじゃないけど、そういう話の流れにしてしまったことに後悔したけどもう遅い。
「結婚かぁ」
あたしの心中を知ってか知らずか、なんでもないことのように呟く。
この話はやめよう。
誤魔化すように冷蔵庫を開けて水を取り出して、ペットボトルごと一気飲みした。

