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「おいこら小松。ここの売り上げ表ミスってる」

「…うわ、すみませんすぐ直します!」


チームリーダーに呼び出されたあたしの嫌な予感は的中、ミスの指摘だった。

今日はご機嫌ななめの様子のチームリーダーはあたしをひと睨みすると、タバコ休憩へと行ってしまった。

このくらいで済んでよかったと思おう。


「先輩、大丈夫ですか?」

デスクにつくなり目をぱちぱちさせてあたしを気遣う後輩ちゃんに大丈夫、と返しておく。
…この書類作ったの、君なんだけど。

そのことを忘れているのかしらばっくれているのか、彼女はケロッとした顔でお昼行きましょ、なんて声を弾ませた。




「先輩、今日仕事終わってから飲みに行きません?」

「あー…今日はちょっと、用事あって」

「噂の彼氏ですかっ?!」


ずい、と身を乗り出した後輩ちゃんは目を輝かせた。


噂、ってなんだ。


「うちの部署で密かに噂なんですよ、小松さんがかっこいい男の人と駅前歩いてるの見たって」

「…ほう」


いつの話だろう。変な顔してたらどうしよう、と思いながらうどんを意味もなく箸で混ぜた。