講義直前のせいで、廊下には人っ子一人居ない。
シンと静まり返った廊下に静かに佐倉の声が反響した。
「なぁ、前に俺がお前に言ったこと覚えてるか?」
「前に…?」
「夏祭りの日、俺お前に付き合おうって言った」
「ああ、あれ…」
絢くんとのことを考えて言ってくれたんだっけ。
あたしのことを考えて、あんなことまで言ってくれたのに。
今あたしは絢くんのことで浮かれて、舞い上がってしまっていた。
恐る恐る佐倉の顔を見上げると、どこか悲しそうな佐倉の顔が目の前にあって。
なんで泣きそうな顔してるの?
「佐倉、どうしー…」
「ああ、ほんとにあの子しか見えてないんだな」
びっくりするくらい弱い声だった。
どこか切なそうに寄せられた眉は、今まで見せたことのない表情で。
ゆっくりと近づいてくる佐倉にあたしは何もできず、
「俺だってずっと好きなんだよ、柚璃のこと」
そっと重なった唇に、ただ目を見開くことしか出来なかった。

