【凛 side】



空き教室から全速力で走る。



額から汗が、目からは涙がでる。



私はそれを乱暴に制服の袖でふく。



「ハァハァ……私、何してるんだろう」



学校の体育館の裏に座り込む。



私は心から斎川さんを応援できたのだろうか。



一週間前、私は楓くんに告白をした。



『好きです!』



勇気をふりしぼって言う。



楓くんから返ってきた答え、それは



『ごめんね、好きな子が居るの』



というものだった。


少しの沈黙が流れた。


そして



『好きな子って、どんな人?』



私が聞くと楓くんが目を見開く。



だけど、すぐいつもの表情に戻る。



『すっごく、優しくて可愛い子。いつもボーッとしてるように見えるけど、実は一生懸命、色んな事を考えて悩んで』



楓くんが思い出し笑いのようなものをする。



『僕はその子が大好き、ほんとに好き』



あぁ………敵わないな、そう思った。



好きな人のことを考えている楓くんの表情は私の見たことのない表情だった。



楓くんは斎川さんのことが本当に大好きなんだ。



二人の間に入ることなんて、出来ないんだ。



胸がギュッと締め付けられる。



『そ、うなんだ、頑張ってね。今日はありがとう』



もっと、話したいことがあった。



だけど、その場から早く立ち去りたかった。



「応援するって決めたのに」



体育館の裏に座り込み、スカートを握る。



私には無理だ。



単純に応援なんて出来ない。



楓くんの色んな表情、私が見たことのない表情を見たことのある斎川さんが羨ましい。



だけど、二人の間に入ることは出来ない。



斎川さん、ずるいよ。



ずるい、ずるい、ずるい、ずるすぎる。



「私が楓くんのそばにいたかった」



目から涙がとまることを知らないようにどんどん溢れてくる。



一人の男の子に恋した女の子、二人。



その二人の一方どちらか、もしくはふたりとも、恋は叶わない。



叶う人もいれば叶わない人も居る、これが『恋』。



私は選ばれなかった、その事実が、胸をよりいっそう締め付ける。



「選ばれたかった、私をみてほしかった」



そう、呟いたとき、



「凛ちゃん?泣いてんの?」



先輩が現れた。



金髪の髪の毛、耳にはたくさんのピアス。



いつも、私に何故かかまってくる苦手な先輩。



こんな時にかまってこなくていいよ………。



「先輩には、関係ありません」



泣いている姿を見られたくなくて、膝に顔を埋める。



「関係あるから」



『ちょっと待ってて』、先輩はかけ足でどこかに行った。

 

見られたくなかったのに。



誰にも見られたくなかったのに。



「………もう、いいや」



見られちゃったし、泣くのはもう、やめよう。



心はまだしんどいし、辛い。



だけど、いつまでも泣いてたらだめ。



笑顔でいなきゃ。



私は自分を奮い立たせる。



袖で涙の跡を拭う。



「……ん、これやるよ」



先輩の声が聞こえて顔を上げると、ペットボトルが差し出された。



「え?あ、ありがとうございます」



先輩からもらったペットボトルの中には青い炭酸が入っている。



「それ、美味しいから飲んでみ」



先輩が私の隣に座る。



「何があったか知らねーけど、元気だせよ。なんか、凛ちゃんが泣いてるの見ると調子くるうんだよ」



頭をかきながら言う先輩。



「何があったか聞かないんですね」



「誰にでも言いたくないことがあるだろ」



「そうですね」



私は先輩からもらったペットボトルのふたを開ける。



シュッと音がなった、その後にシュワシュワと小さな音がなっている。



「先輩、私、炭酸苦手なんですよ」



「あ、そうなのか?知らなかったわ」



先輩が慌てている。



そんな先輩を見ながら、炭酸を口に流し込む。



「………やっぱり苦手です」



先輩も炭酸も、やっぱり苦手です。



「じゃあ、凛ちゃんの好きなの教えてよ」



ほら、そういうところ、私にかまってくるところ。



「………オレンジジュース」



「え?」



「だから、私はオレンジジュースが好きです!」



大きな声で言う。



先輩は驚いた顔をしている。



「お、オレンジジュースね。凛ちゃんが俺の質問に答えるのなんか、初めてでびっくりしちゃった」



先輩がそういったとき、学校の予鈴が鳴った。



「凛ちゃん、俺とサボらない?」



いたずらな笑顔を向けてくる先輩。



「サボりません!先輩も授業、受けてくださいね」



『失礼します』、体育館の裏から教室に戻る。



そして、席につき、先輩からもらったペットボトルのふたを開ける。



口に流し込むとシュワシュワと心の何かが溶けていくような気がした。



それと同時に爽やかな風が吹いたような気もした。