「熱いから、気をつけて食べてね」
「ありがとう」
楓くんが朝ごはんとして作ってきてくれた料理。
卵のおかゆとお腹に優しいスープ。
いい匂いが漂ってくる。
私は、楓くんに渡してもらったスプーンでおかゆをすくって口に入れた。
口に入れるとおかゆの卵の風味が広がる。
冷ましていないからなのか、熱い。
だけど、熱いよりも美味しいのほうが勝つ。
「美味しい。やっぱり楓くんは料理得意だね」
「そうかな?」
椅子に座り、照れて笑う楓くん。
「あと、かわいいね」
私がそう言うと、顔を真っ赤にして照れる楓くん。
愛しいな、そう思う。
だけど、頭の中がふわふわしていて、よく考えられない。
「風菜もかわいいよ」
「え?わぁ!」
頭を撫でられる。
ドキドキと胸が高鳴る。
触れられるのが嬉しい、そう思った。
もっと、その手で触れてほしい。
もっと、その優しそうな顔で私を見てほしい。
もっと、もっと、もっと。
私だけを見ていてほしい。
「お皿一階に持っていくね」
楓くんが、私の食べたおかゆやスープのお皿をさげようとして、椅子から立つ。
「待って」
私は楓くんの服の袖を掴んだ。
「ん?」
楓くんはキョトンとして目を瞬かせる。
楓くんの袖を掴んだまま、私は下を向く。
「行かないで」
「え?」
「どこにも行かないで」
ボーッとする頭の中で単純に思った。
どこにも行ってほしくない。
他の人のところに行ってほしくない。
私のそばに居てほしい。
「他の人のところに行かないで」
「どうしたの?僕はずっと、風菜の近くに居るよ」
楓くんがお皿を机の上において、私を抱きしめてくれる。
楓くんの体温が冷たくて、気持ちいい。
「他の人のところに行かないで」
「うん」
「どこにも行かないで」
「うん」
楓くんの相槌が心地よい。
そして弱っているからこそ、言えるなにかがあるのかもしれない。
「私のことだけみて」
私が結局言いたかったことはこれなのかもしれない。
楓くんが他の人のところに行ったら、他の人をみたら。
それが不安で仕方なかったのかもしれない。
昨日は分からなかった。
だけど、私はきっと、楓くんのことが好きだ。
楓くんがはなつ一言一言に胸が高鳴る。
楓くんが他の人のものになると思うだけで、胸がとても苦しくなるんだ。
これが、好きじゃないなら、なにになる?
恋愛感情じゃなかったら、これはなに?
「ねぇ、好き。大好き」
口から好きがあふれる。
「え…?今なんて?」
楓くんには届いてないだろう。
とても小さな声だったから。
まだ、勇気がでないから。
やるべきことがあるから。



