【風菜 side】



「斎川さんって、楓くんのこと好きなの?」



昼休み、空き教室でいきなりクラスの女の子に聞かれる。



彼女の名前は『彩奈凛』。



サラサラの巻かれたボブの髪、ぱっちりな目。




名前の通り、凛とした雰囲気を持つ女の子。



彩奈さんはとっても可愛い。



よく告白されるのを見かけるほど、男子からの人気が高く、学年一モテるといっても間違いのないくらい。




そんな彩奈さんが私を昼休みに、しかも空き教室に呼ぶなんて何事かと思ったら……楓くんが好きかどうかを私に聞く。



胸が不穏な音をたてる。



「え………?」



「この前見たの。楓くんと斎川さんらしき人が手を繋いで水族館を歩いていたところ。」



彩奈さんが私の目をまっすぐ見ている。



私は気まずくて、目をそらした。



「斎川さんは楓くんと付き合ってるの、好きなの?」



私は楓くんと付き合っていない。



意識しているけど、恋愛対象で好きかどうか……それはまだ分からない。



「付き合ってないし、好きかどうか分からない」



「そうなんだ、なら良かった」



そう言って笑う彩奈さん。



「私、楓くんのことが好きなの」



私は目を見開く。



彩奈さんが、楓くんのこと………好き?



ドクンドクンと心臓から嫌な音がする。



「そう、なんだ………」



私は手を固く握りしめる。



楓くんは私と再会できた日に好きだと言ってくれた。



返事を待つとも言ってくれた。



だけど……。



私は急に不安になる。



もし、私が好きになったとき、楓くんの隣には彩奈さんや彩奈さん以外の人がいるかもしれない。



想像をすればするほど、嫌になる。



あの笑顔が他の人のものになるのかもしれない。



私にはもう微笑んでくれないかもしれない。



そんなの、つらすぎる。



楓くんが他の人の所に行ったら私は………。



「斎川さん、あなたはそれでいいの?」



「いいって、彩奈さんの気持ちでしょ?」



私は少し強がる。



本当は不安で不安でたまらないのに。



「違う!」



空き教室に彩奈さんの大きな声が響く。



私は、びっくりして後ろへ一歩下がる。



「あなたは、楓くんが取られてもいいの?」



彩奈さんの真剣な顔。



一度合えばそらすことのできない目。



「あなたが好きだと気づいたとき、楓くんの隣には違う人が居るかもしれない。それが私じゃない違う人かもしれない。それでいいの?」



私は何も言い返すことができない。



だって、彩奈さんが言ったことと同じことを考えていたから。



「好きな人はいつまでも待ってくれない。あなたが好きかどうか、考えている間に他の人のところに行くかもしれないわよ」



そう言って彩奈さんは教室から出ていった。



彩奈さんの言ったとおりだ。



楓くんは返事を待ってくれると言ってくれた。



だけど、一体いつまで待ってくれるのだろうか……。



その後の授業、私は全く集中できなかった。