バカ恋ばなし

石家先生が赴任して1週間程経過した頃、私にもチャンスが到来した。それは私が珍しく処置回診の当番になったときだった。喜屋武教授から『先に○○1号室に行っててくれ。』と言われたので、石家先生と一緒に処置車を押しながら○○1号室へ向かった。○○1号室へ向かう廊下で石家先生と二人きりになった私はちょっぴりの勇気を振り絞って彼に声をかけてみた。
「あの~」
「はい」
石家先生はさわやかかで整った顔をこっちに向けてきた。その瞬間私の胸はドキッと鳴った。
「せ、先生はここの病棟に少しは慣れました?」
私は先生の顔を見上げながら緊張して少し上ずった声で聞いてみた。
「いや~ここに来て1週間ですからねぇ~。まだまだ覚えることがいっぱいあるし。」
石家先生はさわやかでやさしく微笑ながら答えてくれた。
「そ、そうですよねぇ……まだこっちへ来て1週間しか経っていませんもんね……研修中だから大変ですよね。」
「そうですね~。でもみなさん優しいし、親しみやすくて暖かい雰囲気ですよね~。」
「暖かい雰囲気?」
私は少し驚いた。
「はい。本院は全体的にかなり緊張感漂っているし、看護師さんたちは何だか冷たい感じだけど、こっちはみなさん親しくしてくれていいですよね~。暖かい雰囲気ですよ~。」
「はぁ……暖かい雰囲気……」
「えっ?そう思いません?」
「あ、ああ、そうですよね……」
(暖かい雰囲気……親しみやすさかぁ……あたしには怖い感じにしか思えないけどなぁ……)
石家先生と話しができたことで私の心はグッと明るくなっていった。声をかけるまで緊張でドキドキしていたが、彼の優しくて柔らかい話し方や爽やかな笑顔に癒され、緊張が少しずつ解けていくのを感じた。そんな彼を見て、私の中の彼に対する好感度メーターはどんどん上昇していった。
(石家先生って、笑顔がさわやかで優しそうだな……)