バカ恋ばなし

産婦人科病棟に配属されてから、私は毎日笑顔なく、暗い面持ちで働いていた。
(つまんねえ……怖い……辛い……辞めたい……。)
毎朝西病棟の階段を昇り、ナースステーションに入る度に心の中で念仏を唱えるようにブツブツと呟いていた。そんなことをしているから自然と全身から暗くて怖いオーラを発していた。
「丸田さん、なんだかつまんなさそうだね。いつも暗そうだし、怖いよね。」
「何だかやる気なさそうだよね、あの子。」
病棟の中堅看護師たちから私は密かに陰口を言われていた。私は感情表現が激しく、思ったことは口で言えない分、すぐ顔の表情に出てしまうところがあった。そんな性分だから当然周囲からの印象は悪い。それとは対照的に同期の広瀬は可愛くて表情も明るく、周囲の先輩たちとも上手く付き合っており、すぐに病棟に馴染んで人気者になった。松田も社会経験があるので先輩たちとの付き合いが上手く、周囲から好印象を持たれていた。そんな彼女たちを毎日横目で見て感心し、羨ましく思っていた。
(いいなあ~可愛い人は得だよなあ。それにしても何であんなに愛想良く働けるんだろうか……)  
人気者と不人気者では、当然扱いが違う。病棟回診や分娩介助等の処置では、よく「松田さん」「広瀬さん」と二人は中堅たちから呼ばれて処置介助を手伝わされていた。しかし私は「丸田さんはステーションに残ってナースコール番してね。」とナースステーション内での留守番を押し付けられ、重要な処置介助には呼ばれなかった。彼女たちは産婦人科看護技術や業務をどんどん覚え、
やる気がない私との間に格差がついていった。