バカ恋ばなし

お互いメニューをジッと見てからウェイトレスを呼び、私はミートソースのパスタ、石家先生はハンバーグステーキを注文した。石家先生は注文した後すぐにポケットから煙草の箱を出してその中から1本取り出し、ライターで火を付けてスゥーっと深く吸い込んだ。そしてファーっと思いっきり口から煙を出した。石家先生の周りは白い煙が充満していった。
「いや~今日はホントに忙しかったよ~。急患は来るし、学会の方もやらなきゃならないしでね。それも俺発表することになっちゃってさ……」
石家先生はまた煙草をくわえて深く吸い込み、今度は両鼻から白い煙をフゥーと出した。
「先生、大変でしたね……」
私はお冷を一口飲んだ。
「お待たせしました~」
小柄な茶髪ウェイトレスが注文した食事を運んできてくれた。私たちはお腹が空いているのもあり、黙々と食事をした。食事を済ませ、会計を済ませた後、私たちは外へ出た。2月末で冷たい外気が頬を刺していく。
「ここから俺の家は近いから歩いて行こうか。」
石家先生は少し背を屈ませて赤いダウンジャケットのポケットに手を入れたまま歩き出した。私は急いで先生の隣から少し左斜め後ろで付いていった。横では遅い時間だけど車の往来が激しかった。
(先生、何だか違う感じがする……学会とかで忙しいからかな……)
私は石家先生の左斜め後ろに付いていきながらちょっとした雰囲気の違いを感じていた。
(前はちょっとした話をしたときに微笑んでくれたり、手をつないでくれたのに……)
私たちは黙々と石家先生のアパートに向かって歩いた。アパートまでの道中、石家先生は寒さもあって少し眉間に皺を寄せたような軽く険しい表情で前を向いて歩いていた。私はその斜め後ろから更に身をかがめてちょこちょこと付いていっていた。約10分後、私たちは石家先生の住むアパートへたどり着いた。時計の針は23:00手前まできていた。アパートのドアを開けると、ブワァーっと煙草の臭いが一気に鼻を突いてきた。部屋の明かりを付けたとき、部屋の中にある変化にすぐ気付いた。
(あら、こんなところに……)
「先生、これは?」
私はショルダーバックを床に置いてからあるものを指さした。
「ああ、これ?これね、ソファーベッドなんだよ。デパートに行ったときに寝転がったら気持ちよかったから買っちゃったんだよね~」
石家先生は赤いダウンジャケットを脱いで床に置きながら答えた。先生の顔からやっと微笑が見られた。部屋の真ん中には青いソファーベッドがデンと置いてあったのだ。前に来た時にはそんなものは置いていなくて、万年床が敷いてあったのに。
「デパートへ行ったんですね……」
「そう。」
石家先生はベッドの横にドカッと胡坐をかいた。そしてテーブルの上にある煙草の箱から1本取り出して口にくわえて100円ライターで火を付けて吸い込み思いっきりフゥーっと煙を吐いた。先生の周りは白い煙が充満した。
(先生、あんなに忙しいのにデパートへ行く余裕あるんだ……そんなとき私を誘ってくれなかったのかな……)
そんな思いが頭の中をぐるぐる渦巻いていた。
(ひょっとして……誰か他の人と一緒に行ったのかな……)