バカ恋ばなし

時計の針が13:30分を回ったときだった。背後からガチャっとドアの開く音が聞こえた。私は急いで立ち上がった。
「ただいま~。ごめんね!遅くなっちゃって。」
石家先生は申し訳ないといった顔で両手を合わせながら部屋に入ってきた。
「いやー病棟で処置とかがあって、なんだかんだで遅くなっちゃった。お腹すいたでしょ?どこかで食べに行こうか!」
「行きましょ行きましょ!お昼でお腹ペコペコですよ~。あ、先生が帰ってくる間、私部屋の掃除をしたんですよ。どう?キレイになったでしょ。」
私はニコニコ顔で両手を広げてどうだ!と言わんばかりに示した。
「あぁ、ありがとう!キレイにしてくれたんだね!嬉しいよ!」
そう言って石家先生は部屋中を見渡して、私の額にチュッと軽くキスをしてきた。
私の胸はドキンと大きく高鳴った。石家先生が笑顔でありがとうのキスをしてくれたことがとても嬉しくて目の前がカァーっと明るくなったのを感じた。
「よし、じゃあ行こうか!」
私たちは部屋のドアを出た。タクシーに乗り込み、S駅前で降りてそこから歩いて繁華街の中に入っていった。昼下がりの繁華街は地元K市とは恐ろしく真逆だった。街中が派手で、でも何だか濁っている感じが所々にみられつつ、その中に歩道を埋め尽くすくらいの数のおしゃれな、時々オタクっぽい若者たちがキャピキャピと闊歩して凄く賑やかであった。
「丸ちゃん、何か食べたいのある?」
「私、おいしければなんでもオッケーですよ!」
「じゃあ、ラーメン屋でもいいかな?行きつけのところがあるんだよ。」
「もちろんです!」
私は弾んだ声で答えた。私たちは数分間キャピキャピした同世代くらいの若者たちの間をかいくぐりながら歩き続け、1件の少し古びて小さなラーメン屋にたどり着いた。お店の前は数人が順番待ちをしていた。
「ここなんだけど、結構有名で美味しいお店なんだよ。」
石家先生はにこっと笑顔でお店を指さした。
「へぇ~そうなんですね!結構順番待ちの人がいますね~。」
私はお店の外見と店前に列をなして順番待ちをしている人たちを交互に見回した。20分くらい店の前で待ってからやっと店内に入ることができた。
「いらっしゃいませ~、2名様ですか~?こちらへどうぞ~」
白いタオルを頭に巻いたガタイの大きいお兄さんがはっきりした声で私たちをカウンター席に案内してくれた。店内はほとんどカウンター席になっておりテーブル席は3~4くらいと少なく、ほとんどが若者の男女の客で埋まっていた。
「ここはね、学生時代から通っているんだよ。ここのラーメンめちゃ美味しくてね。それで俺たまに仕事帰りにここへ寄るんだよ。」
石家先生はダウンジャケットを脱いで席の背もたれにかけた。店員が熱いおしぼりを渡してきた。石家先生はおしぼりで手を拭きその後顔をゴシゴシと拭きだした。
「そうなんですね~。仕事帰りにラーメンを食べに行くのっていいですよね~。」
私もダッフルコートを脱いで背もたれにかけた。店員から渡された熱いおしぼりで両手をグリグリ拭いた。おしぼりの熱さのおかげで冷たくてかじかんだ手先がポカポカと温かさを取り戻した。
店員が注文を取りにきたので石家先生はチャーシュー麺、私は味噌ラーメンを注文した。
「丸ちゃんも仕事帰りにラーメン食べに行くの?」
「えぇ、まあ。毎回ではないですけど、たまに準夜勤が終わった後に山田さんやまっちゃん(松田)と行きますよ~」
私はニコニコしながら目の前にあるお冷を一口飲んだ。
「準夜勤に?」
石家先生は少し驚いた感じて聞いてきた。
「そうですよ~。山田さんが深夜までしているラーメン屋を見つけだんで。そのお店はなんと中古のバスをラーメン屋に改装しているんですよ。だから外見は古いバスだけど、中身はラーメン麺屋という変わったところなんです。そこで食べる深夜のラーメンが美味しいんですよ~。」
「へぇ~。」
「醤油味のスープが優しくて夜勤で疲れた身体にじわってしみる感じがして。これがまたいいんですよねぇ~」
私は顔をニッコリさせてまた一口お冷を飲んだ。
そんな話をしているうちに店員がラーメンを運んできてくれた。さすが石家先生が褒めるだけあって美味しかった。麺は縮れており、もやしやコーンがこんもりと麺の上に乗っていて、噌スープもそれほど濃厚でなく程よくじわっと旨味がしみていた。私は、いつもラーメンを食べるときはスープまで飲み干さないのだが、あまりに美味しくて麺と野菜をサクサク食べ、スープまでゴクゴク飲み干した。
「美味しかった?」
スープを飲み干して満足げな笑顔を浮かべている私の顔を見て、石家先生が微笑ながら聞いてきた。
「はい。とても!」
「満足した?」
「めっちゃ満足しました!」
「じゃ、行こうか。」
「はい。」
お勘定を済ませて私たちはギュウギュウのラーメン屋を出た。そしてS駅に向かってまた繁華街の中を歩いて行った。