バカ恋ばなし

『ピピピピ……ピピピピ……』
遠くでアラームが鳴っているのが聞こえた。
「う~ん……」
私は両手を挙げて伸びをした。少しずつ眼を開けると石家先生は隣でまだグーグーと寝ていた。
テーブルの上にあった目覚まし時計を見ると7:30を回っていた。
「先生~目覚ましが鳴ってますよ……」
私はまた伸びをしながら石家先生に小声で囁いた。
「う~ん……今何時?……」
石家先生は両手を挙げて伸びをしながら聞いてきた。
「7:30分……」
「あぁ……もう起きなくちゃ……」
石家先生は大きく欠伸をしながらゆっくり起きて立ち上がり、カーテンを開けた。カーテンからは朝の優しい陽射しが差していた。先生の大きなすらりとした身体は朝の光に照らされているせいか、肌が白く輝いているように見えた。私は朝の光に照らされている先生の裸(特に背中)をマジマジと見た。
(先生の背中ってこんなに大きかったんだな……)
石家先生はドカっと布団の上に座りテーブルに手を伸ばして煙草の箱から1本煙草を取り出して口にくわえ、ライターで火をつけた。口から思いっきり吐いた煙は白く窓から差す日光に照らされてふわふわ宙を浮いていた。
「先生今日はお仕事ですか?」
私は掛布団を口元まで被った。
「うん……午前中だけ病院へ行ってくる……昼前までには家に帰ってくるよ。」
石家先生は欠伸をして眠たそうな声で言った。
「日曜日もお仕事で、大変ですね……」
「まあね……丸ちゃん、何時に帰るの?」
「……特に決まっていないです。先生が帰ってくるまでここで待ってますよ。」
私は布団を被ったまま答えた。
「わかった。ちょっと……シャワー浴びてくるけど、トイレは大丈夫?」
トイレは浴室と一緒になっているユニットバスになっているので、先にトイレへ行っておかないと先生がシャワーに入っている間トイレに行けない。
「あ……私は大丈夫です……先生どうぞ。」
「んじゃあ、シャワー入ってくるね。」
石家先生は全裸のまま部屋を横切り、ピンチハンガーにぶら下がっていた白いタオルをとって浴室へ入っていった。浴室からは水洗トイレの流れる音や、シャワーのシャーっという音がかすかに聞こえた。私はゆっくりと起き上がり、布団の横に散っている下着とシャツを着て、スパッツを履いた。乾燥しているので髪の毛はボサボサで絡みまくっていた。持参したプラスチックのヘアブラシで無理やりぐいぐいと髪の毛をといた。数十分後、石家先生は全裸で髪をゴシゴシとタオルで拭きながら浴室から出てきた。そしてピンチハンガーにぶら下がっていたグレーのブリーフパンツを引っ張ってとり、手のひらで乾いているかを確認してから履いた。そしてハンガーにぶら下がっている白Tシャツをとってそれも手のひらで乾いているかを確認してから被った。押し入れからキャメル色のチノパンツと緑色のトレーナーを取り出して着だした。石家先生が黙々と服を着ている姿を私はただボーっと見つめていた。
(……仕事へ出かける先生、ステキ……)
石家先生は服を着終わると浴室へ向かった。ドライアーの『ゴォ=』という音が聞こえてきた。
浴室から出てきた先生の髪の毛はふわふわに膨らんでいた。先生は床にドカンと胡坐をかいて、テーブルの上にある煙草の箱から1本煙草を取り出して口にくわえた。そして煙草に火をつけてゆっくり吸い込み、フーっと口から煙を出した。先生の目の前は白い煙で充満してもやもやしていた。部屋の中は一層煙草の臭いが充満してきた。
「丸ちゃん、冷蔵庫の中にいくつか飲み物が入っているから、そこから好きなものとって飲んでいいから。昼までには帰ってくるから昼食でも一緒に食べに行こう。それまで待っててね。」
そう言って先生はまた煙草を吸い込み、フーっと煙を吐いた。
「わかりました。待ってます!」
私は笑顔で返事をした。髪の毛は乾燥していて無理やりブラシでといたので、ぼっさりしていた。
「じゃあ行ってくるよ。」
石家先生は灰皿に煙草をすり潰し、私の目の前まで近づいて私の額にチュッと軽くキスをした。そして立ち上がって床に置いてあった赤いダウンジャケットを羽織り、ポケットに財布と鍵を入れてドアの方へ向かい、白いスニーカーを履いてドアを開けた。私も白シャツ、グレースパッツ、ボサボサ髪姿でドア前まで行った。
「行ってきま~す!」
石家先生はクルっと私の方を向いてさわやかな笑顔を向けた。
「行ってらっしゃ~い!」
私は満面の笑顔で手を振った。石家先生はにこっと笑って外に出てドアをバタンと閉めた。
「うわぁ~なんだか新婚みたい!!超うれし~い!!」
ドアが閉まったとたん、私は両手をグッと握りガッツポーズをした。先生がチュッと額にキスしてくれた感触もまだほのかに残っていた。私はもう天にも昇る感じで最高潮にウキウキしていた。