バカ恋ばなし

電車の到着時間まで15分程時間があった。私は口角が上がったニヤニヤ顔で切符購入機でS駅までの片道切符を購入し、そのまま足取り軽やかに改札口を通過してステップを昇り降りしてホームへ到着した。電車が到着するのにまだ10分程時間があった。私は腕時計をチラチラ見ながら電車が来る方向をジッと見ていた。1月の冷たい風が耳や頬をピシッと刺していった。足元にもジワジワと寒さが増していく。
(早く電車来ないかな……)
「まもなく~3番ホームに電車が到着します~」
ホームにアナウンスが鳴り響き、その後ホームの左側奥から電車が見えてきてだんだん近づいてきた。電車が近づくにつれ、私の胸はドキドキと高鳴り出した。そして遂に、私を大好きな人の元へ運んでくれる電車がホームに到着した。
(よし、来たぞ!乗るぞー!)
電車の扉が開いたとき、私はドキドキと高鳴る胸を押さえ、同時にニヤついた顔を他の乗客たちに悟られないようにグッと唇を噛み締めて乗り込んだ。車両内は時間帯もあって乗客はまばらにおり、座席は所々開いていた。私はショルダーバックを網棚に置き、ボックス席の窓際に腰を下ろした。電車の扉が閉まり、ゆっくりと出発した。車窓の風景がゆっくりと動いていき、やがて早くなった。暗くなってきて家や建物の窓の光、お店の看板の電飾が光輝いてきた車窓の風景を、頬杖をついて眺めながらその後訪れるであろう石家先生との素敵な時間の過ごし方についていろいろ想像を巡らせていた。都内の素敵なレストランで食事をして、その後石家先生の家でどんな夜を過ごすのだろうか?想像をするだけで心の底から楽しくなってニヤニヤしてきた。幸い、そのときボックス席には私だけしか座っていなかったので、思いっきりニヤついた顔は他の乗客には見られていなかった。でも電車が進んで各駅へ停車するごとに乗客は増えいき、私の座っているボックス席はすぐに埋まった。私はニヤ付きそうなのをグッとこらえ、車窓から移る家並や様々な建物をジッと長めながら真顔を取り繕っていた。でも口角はひそかに上向きになっているのを感じていた。そうしているうちに電車はU駅に到着した。私は急いで網棚からショルダーバックを取り、左肩にかけた。車両のドアが開いたとたん、乗客が一斉に降りていった。私は他の乗客に押し流されるように降りてそのまま乗り継ぎで別の電車に乗り換えた。都内とあって車両内は込んでおり、私はS駅まで行く間ずっと立っていた。
『まもなく~S駅に到着しま~す。お出口は左側です。車内にお忘れ物のないようにお願い致します。』
車両内にちょっと鼻にかかった男の人の声でアナウンスが響いた。
(やっと着いた!!よしっ、行くぞぉー!!)
私は左肩にかけていたショルダーバックを胸にギュッと抱えながら「すみませ~ん、失礼しま~す。」と小声に言いながら他の乗客をかき分けドアに近づいて行った。
(やっと会える‥‥‥)
私は抱えていたショルダーバックを更にグッと抱きしめた。車両のドアがパァーっと開き勢いよく乗客たちが降りて行った。私もその勢いに飲まれつつドッと車両から降りた。ホームに着き、私は抱えていたショルダーバックを勢いよく左肩にかけて、ニヤ着いた顔で歩いて行った。歩く歩幅は広く、妙に足取りが軽かった。思わずスキップしそうな感じだ。
「えっと西口西口……どこだ?」
私は、小声で独り言を呟きながら、駅西口に向かって勢いよく大股で歩いて行った。石家先生とは西口で待ち合わせの約束をしていた。駅構内は人人人でかなり混雑しており、私はS駅に来たのは人生でほぼ初めてなので少し混乱してしまった。構内の表示を一つ一つ見ながら進んでいくこと数分、ようやく西口の表示を見つけた。
「よしっ、西口見っけ!」
私はまた小声で呟きながら西口改札口めがけて勢いよく歩いて行った。
改札口の前に来た時、私の視界はパァっと光り輝き、胸がカァーっと熱くなった。大勢人のいる改札口の向こう側の中央あたりに石家先生が立っていた。いつもの穏やかな微笑みを浮かべて。