後ろにはあの時包まれていたベットがある。
翔平はコーヒーを淹れてくれている。

「砂糖とか、いる?」

「ああ、えっとね、砂糖一杯にほんの少しの塩を入れて欲しいの」

「え?塩?なんで?」

そんなに大きな声出せるんだとびっくりするほどの声量で問いかけてきた。自分でもいつから始めたのかは忘れたけど、コーヒーにはいつも砂糖一杯にほんの少しの塩と決まっている。甘さがひきたつ気がしているからだ。実際はコーヒーに塩を入れても良いものなのかはわからないけど私が美味しいと思っているからいいのだ。

「や、甘さがひきたつ気がして、、」

「そ、、」

それからは時計の針の音が部屋中に鳴り響いて頭の奥の方を刺激してきた。無言の時間に耐えきれず、テレビをつけた。
もう少しで私の大好きなアイドルの出演している番組が始まる。いつもなら家のテレビの前でソワソワして待っているはずだ。その番組が入る日は帰ってからすぐお風呂に入って髪を乾かして眼鏡をして待機する。
でも今日は、その番組を忘れてしまうくらい頭に真っ白になっていた。

翔平が真っ白なマグカップと下の方に少し亀裂の入ったマグカップを持ってきて、テーブルに置いた。真っ白な方を私の前に出して。
左の方に行く、もくもくといい匂いの煙で、翔平に見えないように顔を隠しながらコーヒーを飲んだ。

半分くらい無くなった所で、あの番組が始まって、翔平が口を開いた。

「あのさ、あの亮太の話信じてる?よな?」

「うん。私達しか知らない事も言われちゃったし、信じるしかないよ」

「そうなんだ。じゃあ、いつも亮太に会いたいとか思わねーの?」

その言葉にあたしはすぐに返せなかった。
それは、うんって言ってしまうと翔平を傷付けてしまうと思ったからだろうか。それとも亮太に会いたいと思うその気持ちに何か後ろめたいものが隠れているからだろうか。わからないけど、きっと前者だと自分に納得させた。