タツナミソウ

「あ、幸子さん、それ俺半分食べたいんだけどもらってもいい?」

「え?あぁ。うん、いいよ」

お茶碗を貰って、半分翔平にお裾分けした。

「半分も食えねーだろ?食べれる分だけ取ってあと、翔平にやれよ」

深澤君がお茶漬けにするためのお出汁を私の前にドンっと置いて言った。わかってるならどうしてもっと早く出してくれたり、その前の注文止めてくれたりしなかったのよと訴えかけると、そんなんしか食えないのにその体型かよとか米はやっぱりシメだよなとか言ってくる。多分だけど、深澤君は作るのを忘れていてそれを誤魔化しているのでないかと予想する。美味しいし、食べれてしまうのが憎いけど、だめな深澤君も見れたという事で許してやろうと心の中に留めた。

___ガチャ。

「いらっしゃいー!」

1人の女の人が入ってきた。彼女を見た瞬間、その場にいる全員のトキが止まって目が離せなくなったに違いない。たしか、私たちがここに来た時には、もう雨は降っていなかったし、今も降っている様子はないのに、彼女は髪も洋服も全部濡れていた。うわっ、やばっとかじゃなくて、むしろ声が出ないほど吸い込まれてしまいそうなくらい、その姿がとても綺麗だった。

「あの、すみません。1人なんですけど大丈夫ですか?」

予想とは違う、意外にもしっかりとした声で彼女は話した。もっと、儚くて消えてしまいそうなイメージだったから尚更驚いた。それから深澤君は急いで、上からタオルを持ってきて彼女に渡した。彼女は1度だけ深く頭を下げて、タオルを受け取り私の隣に座った。真っ白の膝が少しだけ見えるくらいの丈のワンピースを身に纏って、完璧にみえていたはずの彼女の足元には泥跳ねしたような跡がこびりついているのに気がついた。皆んな普通に接するけど、この状況で何も聞かないのも逆におかしいだろうと思った。

「あの、何かあったんですか?」

全員がおい何言ってるんだよという目で私見た。たしかに、聞かないのが優しさなのかもしれないけど、何も知らない他人にそんな優しさを押し付けられても苦しい時もあるし、もし本当に嫌なら誤魔化すだろうし、そうされたら私もそれ以上は聞かない。でも、もし彼女が誰かに話して楽になる事があるのだとすればそのきっかけを自分が作るのは大変な事だと思うから、問いかけた。あとは、単純にこんなに綺麗な人がどうしてこんな風になっているのだろうと知りたかったから。