タツナミソウ

「俺さ、あの時の肉じゃがに本当に感動したんだよ。だから、いつでもチコの肉じゃがが食べたくなるんだよね。流石にしつこかったかな?ごめん。ほら、こういうサンドウィッチとかもさ、食べてみたいよ!」

彼は心配そうにこちらを覗き込んで、目が合うと引きつった笑顔を見せる。あぁ、今私がこんな顔をさせてしまっているんだよな。もう色々考えないで、今は目の前にいるこの彼が私の好きな人。ずっとこれからも一緒にいたいと思っている人。それだけで充分じゃないか。そして、この人に悲しい顔をさせたくない。私が幸せにするからね。そう決意した。

「うん!そんなに、あの初めて作ったお弁当の肉じゃが好きだったんだね!わかったよ。食べたい物全部詰め込むからなんでもリクエストとして?」

「え、あぁ。ほ、本当に?ありがとう、何にしようかな」

すぐに携帯に視線をうつした亮太は一生懸命、検索した写真を拡大したり、スクロールしたりして探している。そんな可愛い姿を見られているだけで今は幸せだ。

「あ!このローストビーフっての食べてみたいんだけど!」

「え?ローストビーフ?お弁当なのに!?」

中にキラッキラの星が描かれているのかと思うほど眩しい目で真っ直ぐ見つめてくるから、首を縦に振る以外の選択肢は与えられなかった。料理は好きなのだけどオシャレなのはことごく避けてきたからやった事ない。だけど亮太のためなら頑張るよ。その目が眩しいと思えなくなるほど私も太陽のように情熱的に眩しくなるね私も。ガッツポーズをして気合を入れた。

「え、何?ファイティングポーズ?」

拳をそのまま亮太の肩に押し付けた。

私の中の筆洗バケツはぼやけて見えなくなっている。おかしいな。どうしてだろう。擦ったところで何も変わらない。感覚で手を伸ばしてみても、届いている距離のはずなのに触れられない。あともう少しなのかな?頑張って指先に神経を集中させても無理みたい。今お水はどのくらいまで入っているの?どのくらいの色が混じり合ってるの?ピンクのとかできてない?大丈夫かな?少し前まで見ているのがすごく辛くてなくなってしまえばこんな悩みも無くなるのにって思っていたはずのものだった。だけど彼に出会ってどんどんそれを見るのが楽しみになっていて、ワクワクドキドキの毎日だった。だからかな?今まで散々蔑ろにしてきたからバチが当たったのかな?見えないものってこんなにも不安で溢れるものなんだ。知らなかった。