タツナミソウ

「いきなり話しかけるから、びっくりして死ぬかと思ったわ。で、何?」

しばらくして落ち着いた深澤君は、水筒の飲み物を少し飲んで右手で口を拭ってから言った。実は咳をしすぎて怖いの方が強かったけど心配しているのが顔に出ていたのだろう。深澤君は、歯を出してニコッと笑って親指を立てて私に近づけた。右の八重歯にシラスが挟まっているのは教える事ができなかったから視線を少しずらして、手に持っている物を胸のあたりにトンッと当てた。深澤君は首を傾げて黙ってこちらを見ている。

「これ!お礼だよ!スコーン作った!チョコチップ入りだよ!」

恥ずかしくて、少し強めに言ってしまった。しばらくしても受け取ろうともしないし声もしないから不思議だ思って顔を上げた。すると、すっごく苦い食べ物を食べた人のような顔をしている深澤君と目があった。え?なに?その表情、、、。は!もしかして!

「もしかしてさ、、。絶対美味しくないとか思ってんじゃないでしょうね?」

「え?顔に出てた?」

後ろの頭をポリポリ掻きながら、わざとらしく言ってきた。だから腹がたって、その手を振り落とすようにバシッと1発叩いた。冗談だとはいえ、少し傷ついた。困らせてやろうと思って、私もわざとらしく落ち込んだフリをした。口角と目尻と眉毛をグッと下げて下を向いた。鼻もすすってみたりして。

「え、、。ごめん。そんな事思ってないよ、ごめんね。ありがとう、めっちゃ嬉しいよ?今食べてもいいやつ?」

絶対わざとだろとかいう言葉を期待していたのに、逆に困ってしまった。なんだか心配してオロオロしすぎて嘘だよというのも言いづらくなって、なんとなくそのまま頷く事しかできなくて、尚更申し訳なく感じた。深澤君はその場で袋を開けて、もぐもぐパリパリして勢いよく食べている。その音だけが、私の耳に響く。あまりにも途切れないから、大丈夫かなと思い顔を上げた瞬間、ブハッという音と共にスコーンのカスが顔に飛んできた。いっきに食べ過ぎて口の中の水分が奪われて詰まって咳こんでしまったらしい。5秒くらい見つめあってから、2人で吹き出して笑った。

「もー、汚すぎる!」

そう言いながら、顔についたスコーンをはらった。深澤君も、ただ単純にはらってくれようとしたのだろう。私の頬に大きな手が触れる。