タツナミソウ

まずはお弁当の定番の卵焼きをやる事になった。事前リサーチで亮太の家の卵焼きはしょっぱい系と言う事がわかった。だから、出汁系とか甘い系とかが食べてみたい。そう言っていたらしい。亮太の友達A君からのタレコミだ。それを深澤君に伝えるとだし巻き卵にしようと言う話になった。卵とか出汁とかちょっとの砂糖とかをぐるぐる混ぜて、四角いフライパンに流し入れる。ここでのポイントは必ずずっと強火でやる事らしい。焦げる、怖いって言ったけど、失敗を恐れていたら美味しいものはできないぞって返されたから頑張った。5回目の挑戦で、成功!とまではいかないけど苦くは無くなって、あとは家で練習するから大丈夫だと伝えた。卵焼きだけで午前中が終わって疲れたからお昼ご飯を食べる事にした。さっきまで嫌味とか言っていたのに、卵焼き作る時は何回失敗しても嫌がらずにアドバイスしてくれるし、やらないとできるようにならないからいいんだよとか言ってくれるし、やっぱり良いやつなのかな。今はお昼ご飯も作ってくれてるし、とってもいい匂いがする。こんな旦那さんとかだったら幸せなんだろうな〜。頬杖をついて深澤君の背中を見て、そんな事を考えていた。

「は!!何考えてんの私!」

机にバンっと両手をついた音と椅子のガタンという音が一緒に鳴った。その音と私の声にびっくりした深澤君は一瞬肩がギュンっと小さくなってからこっちを見た。目がすっごく大きくなっててちょっと可愛い顔をしている。子供みたいな顔を見ていたら自分のよこしまな気持ちが恥ずかしくなって「ごめん」と小さな声で言った。「変なやつ」と笑った彼が眩しくて、勘違いしそうになってしまった。お昼ご飯に出てきたミートパスタとコンソメスープとなんかオシャレなサラダと一緒に飲み込んで粉々にして、私の奥の方に押し込んだ。美味しすぎてそんな事を忘れてしまったっていうのもあるのは秘密。

「ごちそうさま!美味しかった!」

「はやっ。てかそんな食べたら太るぞ!」

「は!!自分が作ったんでしょ!なんなのよ!」

ぷはっ。2人で笑い合った。男の子だけど、嫌味も言うけど、こんなに優しくて楽しくて、笑い合えるのは深澤君だからだ。はじめて男の子で友達になりたい、仲良くなりたいと思う存在になった。