激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす


うふふっと笑う陽菜からジョッキを奪って水の入ったグラスを渡す。

「もう陽菜ってば飲みすぎ。矢上さん、すみません」
「あぁ、いや…」

肩を竦めて謝ると、なぜかバツの悪そうな矢上がゴホンとわざとらしく咳払いをして話題を変えた。

「あー、そういや、もう少ししたらハロウィン関連のレシピも考えるか」
「もうそんな季節なんですね。以前イベントのおやつが毎年マンネリ化してきてるって仰ってたので、少し斬新なアイディアも考えておきますね」

1年目の千花にとって今年はすべてが初めての行事だが、毎年恒例の行事で食事やおやつのメニューがマンネリ化してしまうのは、何年も通っている園児が可哀想だ。定番のさつまいもやかぼちゃを使ったレシピをいくつか調べようと心のメモに書き留める。

「あ、霧崎先生のクラスはハロウィンの衣装どうすんの?」
「予算聞くとあんまり派手には出来ないっぽいですもんね。うちはおばけと黒猫を選択出来るようにしようと思ってます。ゴミ袋と画用紙あればいけそうだし。山崎先生は?」
「そうなんだよ、予算がなぁ。まぁでも2歳児は何したって可愛いもん。かぼちゃのお面と魔女の帽子かな」
「いいですねー!」

保育園で働くだけあって、みんなかなりの子供好き。
大変だという愚痴はありつつも、やっぱり楽しくて仕事の話に花が咲き、アルコールもすすむ。

同世代の仲間とこうしてお酒を飲んだのは、千花のために開いてもらった歓迎会と先月の越智の送別会以来3回目。また集まろうと約束をして21時にはお開きとなった。

帰り際、駅に向かう途中で矢上から「メニューのレシピの参考に、今度休日にカフェ巡りに行かないか」と誘われた。

レシピの参考にと言うからには仕事の一環ではあるものの、休みの日に颯真以外の男性と出掛けるのには抵抗がある。

しかし程よくアルコールの回った頭では、上手な断り方が出てこない。

そのまま3人と駅で別れ、矢上からの誘いは有耶無耶になってしまったが、千花はすっかりそのことを忘れてしまっていた。