反論するのを諦めて颯真の腕に手をかけ、エスコートされながら会場内を進むと、どこに行っても纏わり付く視線の多さに身が竦みそうになる。
元々人の目を惹く容姿に、この会社の御曹司。さらに最近結婚したと周知の事実なので、一緒にいる千花も同じく注目の的だった。
居心地の悪い思いをしている千花とは違い、颯真は慣れているのか多くの視線になんとも感じていなさそうなのが、さらに心許ない気分にさせられる。
それでも不安げな素振りを見せるわけにはいかず、千花は意識して背筋を伸ばして颯真について歩いた。
真っ先に颯真の両親へ挨拶をしに行く。久しぶりに会った彼らは、幼い頃から顔見知りだったとはいえ緊張する。
大企業の社長である颯真の父は千花の父親よりも穏やかそうな雰囲気で、「楽しんでいきなさい」と声を掛けてくれたし、傍らに寄り添う颯真の母には新婚生活について聞かれ、何気ない談笑も出来た。
ホッとしたのもつかの間、パーティー開始の音頭が取られ、いよいよ歓談の時間になると、どこからともなく大勢の人々が颯真へ挨拶にやって来る。
披露宴に来てくれた人もいるはずで、先日秘書の宮城相手に犯した失態を繰り返すわけにはいかない。
千花は事前に聞いていた招待客の情報を頭の中で思い返しながら、笑顔を貼り付け、颯真の良き妻を演じた。
なかなか顔と名前が一致せずに焦りそうになる千花を、颯真はその都度さりげなくフォローしてくれる。
もしここにいるのが弥生だったら、もっと上手く立ち回れたんだろうか。
そんなふうに思ってしまいそうになる卑屈な自分を押し殺し、次から次へとやってくる人へ向けて微笑み続けた。



