しかし考えてみれば、颯真が軽く考えていたように、弥生だって自分との噂なんて重く考えていなかったに違いない。聞かれてもいないのに妹に『あの噂は嘘だからね』なんて、わざわざ話しはしなかったのだろう。


呆然とした頭で必死に考える。

残された離婚届と結婚指輪、そしてこのメモを見れば、弥生が帰ってきたことによって自分は身を引かなくてはと千花が結論づけたことは察しが付く。

昨夜の友人宅への泊まりも、もしかしたらそれが原因なのだろうか。

「千花……」

なんとしても千花をつかまえて話をしなくては。

そう拳を握りしめるものの、昨夜千花と一緒にいたであろう友人の連絡先すら知らない。自分の不甲斐なさに唇を噛みながら、颯真は千花の勤め先である保育園に連絡をとった。

確か彼女は霧崎といった。電話口に出た者に彼女の名前を伝え繋いでもらう。

『えっと…月城さん?』
「はい、千花の夫の月城です。突然すみません」

陽菜は職場に連絡してきた颯真に驚きつつ、千花が家に帰っておらず連絡がつかないのだと話すと、納得したように自身の電話番号を告げて1分後に掛け直すよう指示をくれた。

颯真が言われた通り陽菜の番号に掛け直すと、場所を変えてくれたのか後ろのざわめきが聞こえなくなった。かなり聡明な女性のようだ。