激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす


「学生時代、お前らが付き合ってるって噂は広まってたし、当然千花ちゃんの耳にも入ってただろ。風よけになるからって周りには肯定も否定もしなかったけど。そのこと、結婚する前にちゃんと彼女に否定したの?」
「…いや、俺からはなにも。今更だし、当然弥生が話してるだろうし…」

そう言いながらも、どこか嫌な予感が胸を苛む。ぐるぐると得体の知れないものが身体中を蝕み、居ても立っても居られなくなっていく。

結局その日はいくら仕事をしても千花のことが頭から離れず、いつもよりもかなり早い時間に帰宅することにした。

玄関を開けて中に入ると、昨日同様真っ暗な部屋。さすがにこの時間になっても千花が帰っていないなんておかしすぎる。

慌ててリビングの電気をつけると、真っ先に目に入ったのはダイニングテーブルに置かれた紙と指輪だった。

「……っ!」

二つ折りにされた緑色の紙はドラマでしか見たことのないもので、右側の妻の欄にはすでに千花の字で記入が済んでいる。

そして、小さなメモに書いてあったのは……。



――――お姉ちゃんと、今度こそ幸せになってください。今までありがとう。