母さんの車の助手席から見えてきた大きな本堂。

駐車場から続く長い坂道。

玄関を開け、
「ただいま」
「紅羽、おかえりー」
おばあちゃんの声。

奥の部屋から出て来たおばあちゃんにギュッと抱きついた。

小さい頃から学校の先生をしている父さんも母さんも忙しくて、私はずっとおばあちゃんっ子だった。
学校から帰るとおばあちゃんの用意したおやつを食べ、勉強を見てもらった。
遊びに夢中で帰りが遅くなった私を、玄関先まで出て待っているのもおばあちゃんだった。

「あれ、顔色が悪いね」
「えっ」
ヤバっバレた。


久しぶりに家族で囲む夕食には、父さんも帰ってきた。
大好きな母さんの手料理。
うーん、美味しい。
田舎らしい濃いめの味で、年寄りでも子供でも食べられるようにバラエティーにとんだメニュー。
子供の頃から食べ慣れた味。
美味しくて、つい食べ過ぎて、

オエッ。
トイレに駆け込んだ。

「大丈夫なの?」
心配そうな母さんの声。
「うん」
トイレから出ると母さんが立っていて、思わず泣きそうになった。

そうだった、私はまだ大事な話をしていない。
この体に命を宿してしまったことをずっと黙っておくわけにはいかないのだから。

その時、
「食事が終わったら本堂に来なさい」
廊下の先に立つ父さんの厳しい顔。

小さい頃から、本堂に呼ばれるのは本当に悪いことをしたとき。
何度も何度も叱られた経験からわかっている。