ガチャ。
すっかり寝てしまった紅羽を抱えて、玄関を開けた。

「おかえりなさい」
福井翼が顔を出した。
「ただいま」
俺の家でもないのに、自然と口を出た。

「寝たんですか?」
「ああ」
「先生も大変ですね」
「まあな」

多感な思春期を他人の家ですごしたせいで、俺は外面のいい人間になってしまった。
いつ笑顔でニコニコしているから年寄りには好かれるし、愛想が良ければ仕事もやりやすい。
そんな宮城公を自分で作り上げた。
しかし、こいつに関わる時でだけ本性が出てしまうんだ。

よほど疲れていたのか、ベットに運んでも紅羽は起きなかった。


キッチンに入り、冷蔵庫を空けてみる。
水と、ビールと、卵が数個。

「相変わらずの食生活か」
とてもじゃないが、妊婦の、イヤ女性の家とは思えない。