俺の両親はごく普通の会社員と専業主婦だった。
小さなアパートの4人暮らし。
俺の上に姉がいる。
決して裕福ではなく、体の弱い母さんは働きに出ることもできなかった。

父さんは寡黙で真面目な仕事人間。
母さんは、元々金持ちの娘だったらしい。
駆け落ちして一緒になったと大きくなってから聞かされた。

そんな母さんも、俺が13歳、姉貴が15歳の時に病気で死んでしまった。
母さんの訃報を聞いて駆けつけたじいさんは「お前が娘を殺したんだ」と父さんに罵声を浴びせた。
葬儀の後、俺と姉貴は母さんの実家に連れて行かれた。
父さんは止めなかった。

一生懸命頑張りすぎた父さんは、母さんが亡くなる前から心を壊してしまっていて、病院を出たり入ったりの暮らしだった。
そんな父さんに子供を育てられるはずもなく、どうしようもない選択。
3年後、父さんは病院で亡くなった。

金持ちの家とは言えすでにおじさんが家督を継いでいて、俺も姉貴も肩身は狭かった。
少しでも早く自立したくて、奨学金をもらって医者になることを決めた。

だからかな、周りの人間に比べると家族ってものに対する思いは薄いのかもしれない。
いつかは家庭を持ちたいと思うものの、子供とか結婚に対するこだわりはない。
かえってしがらみを感じて、一生結婚しなくてもかまわないと思うときさえある。
その俺が、父親かあ。