「紅羽、行くぞ」
仕事を終えた公が、私の荷物を持つ。

日中を診療所で過ごした私は1で人帰ろうとしたけれど、
「何かあったらどうするんだ」
不機嫌そうな公に止められてしまった。

「寝られそうなら寝ておけ」
「うん」

車に乗り込むときに、タオルケットとミネラルウォーターを用意してくれた。
時々私の方を見るのも、いつもの公とは違う。

「今の病院での勤務はいつまで?」
「えーっと、月末まで」
「あと20日か」
困ったなって顔。

「でも、来月の中旬には新しい勤務に就くから、2週間くらいしか休みはないの」
「そうだな」
何度も異動を経験してきた公の方が詳しいわよね。

「部長に話して勤務を軽くしてもらおうか?」
「はあ?」
冗談でしょ。それに、

「なんて言うの?」
俺の子供ができたって?
ああ、馬鹿らしい。

「やめてよ」
公らしくない。
「これからもっと辛くなるぞ」
「うん」
「お前1人の体じゃないんだぞ」
「大丈夫。分ってるから」

きっと、公は子供の心配をしている。
自分の遺伝子を大事に思ってくれているのか、妊娠させてしまった責任からなのか、それはわからないけれど。

「無理はするなよ」
「うん」
「少しでもいいから、飯を食えよ」
「うん」
「あんまり怒るな」
「・・・」

「返事」
「約束できない」
世の中腹立たしいことがありすぎて、自信がない。

「でも、怒るな。きっと聞こえるから」

「うん。努力する」

公は、きっといいお父さんになる。
優しくて、怒ると怖い理想のパパ。
でも、私はダメ。
親になる自信なんて・・・ない。