うえぇー。
今日も朝から吐き気に襲われる。
ここのところずーっとこの調子。
夏美にも「いい加減に受診しなさい」って毎日言われている。

「でもねえ」
ペットボトルのミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出し、一口含んだ。

うえぇー。
やはり吐き気は治まらない。

マズイなあ。
できれば休みたくないのに。

「おーい、紅羽。大丈夫か?」
階段の下から翼の声。

「ダメみたい」

「はあ?」
ダダダッと階段を上がる足音。

トントン。
「入るぞ」
返事を待つことなく入ってきた翼が、

「何してる?」
私を見下ろす。

「気持ち悪い」
小学校の遠足でバスに酔ったときより酷い。
2日酔いの10倍は辛い。

「そんな所にいたら良くならないだろう」
手を差し出して、私を抱えようとする。

台所の片隅で冷蔵庫を背にうずくまり、膝とエチケット袋を抱えた私は翼に寄りかかった。

「今日の勤務は無理だな」
「えー」
この状態では仕事にならないのは私にだって分っている。
でも・・・
1ヶ月後、私は異動になる。
勤務先は隣町の市立病院。
一応、救急外来を持つ総合病院。
決して左遷ではない。
早いか遅いかの違いで、夏美だって翼だって異動はある。
いつまでも同じ現場にいられる医者なんてごく一部なんだから。
分ってはいるけれど・・・