最悪。何なのよ、このおっさん。
それよりも
「父をご存じなんですか?」
「ああ。みんなお前の親父のことが忘れられないんだ。もうじき生まれる子供と新妻を残して過労死なんて悲劇だろうが」
「確かにそうですね」
「それに、お袋さんも数年後に亡くなっただろ」
「ええ」
「同期の連中は何で助けられなかったのかって、ずっと気にしている」
「じゃあどうして、今まで誰も何も言わなかったの?」
「言えるか。お前がそんなに刺々しくしていれば、恨まれてるんじゃないかって気がして言えるわけがない」
「恨まれるようなことがあるんですか?」
「ない。でも、仲間のくせに助けられなかった。鬼部長に捕まって、真面目なあいつがボロボロなのが分っていて、助けることができなかったのは事実だ」
寂しそうな顔。

驚いた。
何で部長がとも思った。
でも、真実を聞いたからと言って心を許すことはできない。
今の私には、父を過労死に追いやった当時の部長も目の前の小児科部長も同じに見えるから。

「もう少しかわいげがあって器用にしていればいいのに。お前も馬鹿だな」
部長の辛そうで苦い顔。
この表情の意味がこの時の私にはわからなかった。

しかし、数日後。
突然の私に出た異動の辞令。
驚いた。どう考えても部長の差し金としか思えない。
そして、勤務医である以上従うしかないんだ。