秋。

私も、小児科医として働くことに慣れた。
相変わらず部長には嫌われているけれど、上手にかわせるようにもなってきた。

「あれ、山形先生また痩せたんじゃありませんか?」
病棟師長の鋭い突っ込み。
「そんなこと・・・ないですよ」
って言ってはみたものの、さすがによく見てる。

「体調管理万全にお願いしますね。もうすぐインフルの季節なんですから」
「あー、はい」

毎年、寒くなると小児科は目が回るほど忙しくなる。
インフルエンザの患者や、肺炎、ぜんそくの患者で病棟はいっぱいになってしまう。
そんなときに小児科医が体調不良なんて言ってられない。

「紅羽、本当に大丈夫なの?」
夏美が顔をのぞき込む。
「うん、大丈夫。ありがとう」
笑って見せたけれど、本当は・・・ちょっとまいっている。


実は、一昨日の夜公がうちにやって来た。
平日なのに珍しいなあと思っていると、
「辞表を出した」
何の前触れもなく告げられた。
それに対して、
「そう」
冷静に返事をする私。

今の生活が長く続くとは思っていなかった。
いつかは考えなくてはいけないと思っていた。
でも、こんなに早く・・・

「後任もすぐには見つからないだろうから、春までは嘱託医としてこれまで通り勤務することになると思う」
「そうなの」

平日は診療所で勤務して、週末はこっちに帰って来る。
当面の生活に変化はないってことね。
きっと、家に泊っていくんだろう。

「春からどうするの?」
思い切って聞いてみた。
「考えてる」
「そう」
それ以上は言えなかった。

公のこれからの人生に私の意見は入らないんですか?って言えたらいいのに。
かわいくない私には無理だな。