それから、公は忙しくなり連絡も途絶えがちになった。
私も何も言わなかった。

「おはよう」
病棟センターに顔を出した私に、夏美が寄ってきた。

「ああ、おはよう」
「今日、抜糸だよね」
「うん」
やっと。

たった10日間だったけれど、凄く不便だった。

「嫌がらせの犯人はまだ?」
「うん」

おそらく捕まらないまま終わる気がする。
実際、事件以降は何も起きていない。

「このまま忘れ去られると思うわ」
私は別にそれでもいい。

「抜糸が終われば、お酒も解禁でしょ?近いうち、みんなで飲みましょう」
「そうね」
「最近、良太が凄くご機嫌なのよ。落ち着いたら飲みに行こうって、伝言」
「なんで?」
いいことでもあったんだろうか。

「来月から外来の担当日が増えるって喜んでいるのよ」
「へー」
「宮城先生が3ヶ月の長期出張で、その代わりだって」
「ふーん」

結局公は、まず3カ月間の出張として向こうへ行って、その後正式に辞令が出るらしい。
なんて、これもすべて翼から聞いた。
公は何も話してはくれない。

そして、今まで3日に一度は顔を出していた公が、家に来なくなった。
もちろん、色々と忙しいのは分っている。
そのことに文句を言うつもりはない。
毎晩、『今日も変わりなかったか?早く寝ろ』ってメールは変わらずやってくる。
それに対して、『今日も変わりなかったわ』としか返さない私がいる。