翌朝。

「オーイ、朝飯作ったから来いよ」
階段の下から響く翼の声に誘われ1階のリビングへ降りた。

「お邪魔します」
うわー、美味しそうなフレンチトースト。

「どうぞ」
「いただきます」

うーん美味しい。
翼が作る料理って、本当に美味しい。
別に料理上手ってわけでもないのに、味や食感、火の通し加減がちょうどいい。
私が同じように作ってもどこか違うのは何でだろうって、考えたことがある。
そこでたどり着いた結論は、翼ってきっと舌が優秀なんだと思う。
それは才能とかじゃなくて、小さい頃から本当に美味しいものを食べてきたって事。
その料理に対する理想型を知っているから、それに近づけられる。
だから、翼の料理は美味しい。

「昨日、旦那早く帰ったな」
「あ、うん」

一緒に住んでいれば、気づかないわけないわよね。
今更誤魔化してもしょうがない。

「急変?」
「違う。喧嘩した」
「お前がまたわがまま言ったんだろう」

やっぱりそう思うのね。
まあ、事実だけれど。

ん?
翼がジッと見つめている。

「何よ」
「・・・別に」

何か言いたいって、顔に書いてあるのに。

「はっきり言いなさい。翼らしくないわよ」
とは言ったものの、翼らしいって何だろう。

「お前、何も聞いてないのか?」
「だから、何を」
つい、声が大きくなった。

「紅羽」
哀れむような翼の視線。

な、何なのよ。

「異動の話が、出てる」

ええ?

「それって・・・・公?」
「ああ」

うそ、嘘よ。
私、何も、聞いてない。