「はい、薬」
翼の手に乗せられた錠剤が4錠。

「えー、いいよ。もう元気だし」
錠剤って苦手。
喉につかえるようで、飲みにくい。

「ダメ。いいから飲め」
水と一緒に、鼻先まで差し出された。

「後で飲むから、置いておいて」
「ダメだって」
どうせ飲まないだろうって、感づかれている。

「飲んでくれ。じゃないと、俺が困る」
「どうしてよ」
「実は、旦那に頼まれてるんだ。紅羽は薬を飲まないだろうから、飲むのを見届けて欲しいってね」
何それ。
子供扱いして、

「分った。飲みます。でも、その、旦那ってやめてよ」
馬鹿にされている気がする。

「旦那だろ。違うのかよ」
「イヤ、その・・・」
「いいから飲め。俺も仕事に行くんだから」
ああ、そうでした。

えい、やあー。
ゴックン。
はぁー、なんとか飲み込んだ。


「まだシャワーは無理だから、体拭くなら手伝うぞ」
はあ?
とんでもないことを言い出した翼を、思わず睨んでしまった。

「大丈夫、お前が女に見えたことはない」
そんなことは聞いていない。
「いいから、仕事に行きなさいよ」
「照れるなって、お互い人の裸なんて珍しくもないだろう?」
もう、そう言う問題じゃない。

「バカ。いらないわ」
「じゃあ、夏美か誰か呼ぶか?」
「いい。遅くなるけれど、公がくるから」
「そうか」

旦那もマメだななんて言いながら、翼は部屋を出て行った。